一目惚れから始まった恋の行方〜彼との出会いで感じたこと〜

・作

彰君との出会いは、出会い系サイトからだった。

彰君のプロフィールを最初に目にした時、

心臓が一瞬止まるような感覚に襲われた。

理由は簡単だ。その写真の中の彼が、あまりにも魅力的だったからだ。

私は、その瞬間に完全に心を奪われてしまった。

 

気づけば、私は無意識にメッセージを打っていた。

 

『初めまして。写真、すごく素敵です!』

 

緊張で手が震える中、送信ボタンを押したものの、すぐには返事が来なかった。

待てども待てども、通知は鳴らず、諦めかけたその時…

 

『彰君からメッセージがあります』

 

通知が鳴った瞬間、心臓が跳ね上がった。えっ、彰君?本当に?

 

画面に映る名前を確認し、驚きと喜びで胸がいっぱいになった。ずっと気になっていた彼からの返事がくるなんて、夢のようだった。

 

どうしよう、何を言えばいいんだろう…

心臓が鼓動を速める中、私はなんとか返信を打った。

 

『万理華です。

メッセージありがとうございます。』

 

少しの沈黙の後、彼からの返事が再び届いた。

 

『彰です。気楽にいこうね〜』

 

そのカジュアルで優しい言葉に、私の緊張は少しずつ解けていった。

 

それから私たちの会話は自然に続き、彰君はいつも優しく、私の気持ちに寄り添ってくれた。彼とのやり取りが日常の一部になり、次第に電話で話すことも増えていった。

 

毎晩遅くまで話すようになり、私は日に日に彼への想いが深まっていった。でも、実際に会うことには踏み出せなかった。

なぜなら…

彰君はとても魅力的で、私はそんな彼の前に出るのが怖かった。

見た目に自信がなかった私は、彼を失望させるのではないかという不安に苛まれていた。

 

『彼にガッカリされたらどうしよう…』

 

そんな葛藤を抱えたまま、私たちは顔を合わせることなく、約1年間関係を築いていったのだった。

 

初デートの誘いは突然だった。

その夜も、いつものように彰君と電話をしていた。1年以上もメッセージや電話で繋がってきた私たちは、自然体で話せるほど親しくなっていた。

でも、時々、ふとした瞬間に

 

『彼と実際に会ってみたい』

 

という気持ちが心の奥で大きくなっていくのを感じていた。

 

『明日、休みなんだよね』

 

彰君が軽い口調でそう言った瞬間、私の胸はドキンと跳ね上がった。

実は私も明日、予定がなかった。

 

偶然にも、タイミングがぴったり…。

 

そして彼が続けて言った。

 

『会ってみない?』

 

その一言に、私は思わず息を飲んだ。

会ってみたい気持ちは確かにあった。

でも、同時に自分の心に湧き上がる不安も拭いきれなかった。彰君は素敵すぎる。

見た目も完璧で、性格も優しい彼に対して、私は自信がなかった。

 

『本当に私でいいの?』

 

そんな疑問が頭を巡り、気持ちが揺れる中で、咄嗟に

 

『ちょっと急すぎるかな…』

 

と口に出してしまった。もちろん、それがただの言い訳だということは、自分でもわかっていた。けれど、彰君には簡単に見破られてしまった。

 

『大丈夫だよ、無理しなくていいからさ。気楽に会おうよ』

 

彰君の言葉に押されるように、結局、私は会うことを決めた。

 

突然決まったデート。

 

『会ってみたい、でも私が現れたらガッカリさせてしまうかも…』

 

期待と不安が交錯する中、彰君の優しさに背中を押されつつも、緊張で胸が高鳴るのを必死に抑えながら、なんとか眠りについた。

 

彰君との初デートの日。

待ち合わせは駅前のカフェ。

駅に着いた瞬間から、私はずっと心臓が高鳴っていた。

 

カフェに入ると、すぐに彼の姿を見つけた。まるで、座っている姿は、白馬の王子様みたいだった。

 

『本当にこんなに素敵な人が私の前にいるんだ…』

 

そう思った瞬間、息が詰まった。

それと同時に、

 

『どうして私なんだろう?』

 

という不安が心の中を駆け巡っていた。

 

彰君は私の顔を見てニコッと笑いながら、

 

『大丈夫?緊張してる?』

 

と優しく声をかけてくれた。

その笑顔に少しだけ安心したけれど、不安はまだ完全に消えないままだった。

 

席に着くと、彰君はいつものように穏やかな話し方で話題を振ってくれた。

ときどき、

 

『本当にそれ、素敵な考えだね』

『わかる、僕もそう思うよ』

 

といった優しい言葉を挟んでくれて、次第に私も自然に話せるようになっていった。

時間が経つのも忘れるほど会話が弾み、気づけば夕方。

 

彰君がちょっと照れた様子で、

 

『もう少し一緒にいられたらいいな……』

 

と言った時、私の胸はまたドキッとした。

そして、彼が思い切って、

 

『万理華の家に行ってもいい?』

 

と言ってきた時、私は驚いたけれど、断る理由も見つからず、頷いてしまった。

 

家に着いてからも、終始彼の優しさで、楽しく会話を続けることが出来た。

突然、彰君の会社から電話がかかってきた。 

彼が真剣に電話をしている姿を見ていると、私はついイタズラ心が芽生えてしまい、彼の足をこっそりフミフミして遊んでいた。

 

電話を切った彰君が笑いながら、

 

『やり返すぞ~!』

 

と言って、私の足を軽く踏み返してきた。

その瞬間、バランスを崩して彼に寄りかかってしまった。

 

『ごめん!』

 

と慌てて謝った私に、彰君は優しく、

 

『大丈夫』

 

と言って、ぎゅっと私を抱きしめてくれた。

 

その温かさに包まれて、初デートの不安がすべて消え去った瞬間だった。

 

そこから、いつの間にか、私たちは、一線を超えてしまった。

 

最初は、キスから始まった。

唐突のキスに私は思わず、 

 

『あっ……』

 

と声が漏れてしまった。

 

私は慌てるが、彼はそんな私の声に気づいていないようだった。 

そのキスは、今までにないくらい深く、ねっとりとしたキスだった。

 

キスをしている間に、彼の右手が私の肩にまわり、優しく包み込むように背中へ回される。 同時に、私も彼を抱きしめるように背中に手を回す。 

そして、彼の左手が私の腰へと回り込み、さらに体が密着する。 

 

『んっ……ああんっ……』 

 

 と思わず声が漏れる。

 

 『大丈夫?』

 

と彼が聞く。

 

 『うん……』

 

と私は答える。 

 

『じゃあ、もう少し……』

 

と言って、再びキスをしてきた。

 

今度は、もっと深いキスだった。 

 

彼の舌が私の舌に絡みつくようにして、お互いを求め合う。 その快感に溺れそうになる。 

 

そんなことを考えているうちに、いつの間にか、ベッドの上に押し倒されていた。

彼が覆い被さり、私にキスをする。 

今度は、首筋に優しくキスをしてくる。 

 

同時に、彼の手が服の中に入ってくる。

 

 そしてそのまま服を脱がされ、上半身裸になったところで手が止まり、 

 

『ごめん、痛かったら言って』

 

と彼は言い、私の胸の先を優しく摘む。

 

 その瞬間、

 

『ああ……んっ』 

 

と声が漏れてしまった。

 

 そんな私の様子をうかがいながら、彼はゆっくり、ゆっくりと愛撫を続ける。 

そしてついに、彼の手が下半身に伸びてきた。 彼の右手がショーツの上から優しく触れる。 最初は軽く触れる程度だったが、徐々に強くなっていく。

 同時に左手は胸を揉み続けている。 

その刺激に私は声を抑えきれない。

 

万理華『はあ……ああんっ』  

 

彰『大丈夫?』

 

万理華『うん……』

 

彰『じゃあ、もう少し……』

 

と言って、再びキスをしてきた。

今度は、さっきよりも激しくキスをしながら、彼は私の秘部を弄り続ける。

 

やがてショーツが濡れてくる頃になって、彼が言う。

 

 『触っても良い?』

 

私は黙ってうなずくしかなかった。

彼は慣れた手つきでスカートを脱がし、私の最後の一枚をゆっくりと脱がす。

そしてついに生まれたままの姿になった私を見て、彼は言った。 

 

『綺麗だよ』

 

と言ってくれた 。

 

『ありがとう……』

 

 私は小さな声で答えた。 

 

そして、彼は私の秘部に触れた。

 

 万理華『んっ……あっ……』

 

彰『気持ちいい?』

 

万理華『うん……気持ちいい』

 

と思わず答えてしまった。 

そんな私に彼は言った。

 

『もっと気持ちよくしてあげるよ』

 

と耳元で囁く。 

その言葉にドキッとした次の瞬間、彼の中指が私の膣内に入ってきたのを感じた。

そしてゆっくりと動かし始める。

 

最初は一本だけだった指が徐々に増えていき、最終的には三本になった。

その指の動きに合わせて、クチュクチュという音が響くと、同時に 

 

『あっ……ん……あ……あ……』

 

 という声が自然と出てしまう。 

そんな私の様子をうかがいながら、彼は言う。 

 

『そろそろいいかな?』

 

 『うん』

 

 私は小さく答える。  

そして彼は自分のズボンとパンツを脱ぎ、大きくなったものを出す。 

その大きさに私は思わず息を呑む。 

しかし、彼は優しく微笑んで言った。 

 

『大丈夫だよ』

 

と言ってくれたのだ。  

そしてついに彼のものが私の膣内に入ってきた。最初はゆっくりと、徐々に激しくなっていくピストン運動に、私は

 

『あっ……ん……あ……』

 

と声を上げ続けた。  

やがて彼の動きが更に激しくなるにつれ、

私も絶頂が近づいていくのを感じた。 

 

『あっ……イっちゃいそう……』

 

 と私が言うと、彼は言った。 

 

『俺もそろそろ限界だ』

 

そして私たちは同時に果て、

初デートで、体を重ね合ってしまった。 

 

初デートの帰り道。

もう辺りは薄暗くすっかり夜になっていた。

私たちは駅に向かいながら、他愛もない話を続けていた。

笑い合ったり、少し真面目な話をしたりして、まるで、ずっと一緒に過ごしてきたかのように自然な雰囲気が漂っていた。

けれど、心の中では少し違っていた。

私は、さっきまでの出来事が頭の中をぐるぐると巡っていた。

 

初デートなのに、

あんなことになっちゃって…。

そんな風に思っていた矢先、駅が近づいた。彰君と歩くその短い距離が、なんだか少しだけ惜しく感じていた。

もっと一緒にいたい、そんな気持ちが心のどこかでふくらんでいた。

 

駅の明かりが見えたその瞬間、彰君が突然、

 

『こっちに来て!』

 

と私に声をかけた。

彼のその言葉に、一瞬戸惑いながらも、何が起こるのだろうと少しワクワクしながら後を追った。何気なくついて行くと、駅から少し外れた、誰もいない静かな場所に連れて行かれた。

 

『なにかな?』

 

と心の中で思っていたその瞬間だった。

 

いきなり、彰君が私に近づいてきて、軽く私の肩に手を置いたかと思うと、そのまま唇が触れた。

柔らかな感触が一瞬だけ続き、私は何が起こったのか理解できないまま、心臓が大きく跳ね上がった。

 

驚きと同時に、心が熱くなり、頬が赤くなるのが自分でもわかった。でも、彼はそのまま笑顔で、

 

『 じゃあ、またね!』

 

と何事もなかったかのように言い残し、軽やかに去って行った。

 

私はその場に立ち尽くしたまま、心臓の高鳴りを抑えられず、ドキドキが止まらなかった。

彼が遠ざかる姿を見送りながら、唇に残る感覚と、彼の言葉が頭の中で繰り返されていた。

 

『…今、キスされたんだよね?』

 

信じられない気持ちと、嬉しさとが混じり合い、胸の奥が熱く締めつけられる。

どうしてだろう。

こんなにドキドキしているのは、きっと私はもう、彰君のことが好きになり始めていたんだろうな…。

 

彼の背中が見えなくなった後も、私はしばらくその場に立ち尽くしていた。

 

初デートを終えて、自宅に帰る道のりは、まるで夢の中を歩いているかのようだった。

足元がふわふわしていて、現実感がない。

それでも、心臓の鼓動だけは、はっきりと自分に伝わってくる。

さっきのキスが頭から離れない。

彰君の笑顔、あの一瞬のぬくもり、そして彼が「またね」と軽やかに言った言葉…。

すべてが鮮明に思い出される。

私は何度も心の中で自問した。

 

『本当に、これで良かったのかな?』

 

初デートの最後にキスをされるなんて、まるで映画みたいな出来事。

どうして、こんなに自然にキスをして、そのまま去って行けるんだろう?

もっと何か言って欲しかったような気もするし、でも私自身も何も言えなかった。

あまりにも突然で、ただその場に立ち尽くすしかなかったのだ。

 

夜風が、肌に心地よく当たるが、その涼しさが私のほてった頬を冷やすには、足りなかった。

心の中はまだ混乱と興奮でいっぱいだった。

 

『もっとちゃんと話せばよかったのに…』

 

自己嫌悪に陥りながら、ふとスマートフォンを手に取った。

彰君からのメッセージが気になって、何度か画面を確認するけれど、新しい通知はない。あれから少し時間が経っているのに、まだ彼からの連絡が来ていないことで、少し不安になってきた。

 

彼は、どう思っているんだろう。

さっきのキスは一体、何を意味していたんだろう。

彼も私のことを好きでいてくれるのか、それともただの気まぐれなのか…。

答えが出ないまま、私の心はどんどん不安に飲み込まれていく。

 

歩道に差し込む街灯の明かりをぼんやりと見つめながら、私はため息をついた。

心の中では期待と不安が入り混じり、どちらにも振り切れずにいる自分がもどかしかった。

 

家が近づいてきた頃、ポケットの中のスマートフォンが小さく震えた。

ドキッとしながら画面を確認すると、彰君からのメッセージだった。

思わず息を飲みながら、ゆっくりとその内容を開いた。

 

『今日のデート、楽しかった!

  また会おうね!』

 

その短い一文を見た瞬間、心の中にあった不安がふっと消え去った。

まるで、夜空に浮かぶ雲がぱっと晴れて星が輝くように、私の胸に温かい光が灯るのを感じた。彼も同じように楽しい時間を過ごしてくれたんだとわかるだけで、自然と笑みがこぼれた。

 

しばらく、どう返事をしようかと考えたけれど、結局シンプルに

 

『私もすごく楽しかった!

   また会えるのを楽しみにしてるね!』

 

送信ボタンを押した。

その瞬間、また心臓が高鳴った。

でも、今度はそのドキドキが心地良く感じられた。

家の前にたどり着き、扉の前で立ち止まりながら、私は空を見上げた。

夜空には星が輝いていて、その光がこれからの二人の未来を少しだけ明るく照らしているように感じた。

 

これから先、彰君とどうなるのだろう。

その答えはまだわからないけれど、今はただ、この胸の高鳴りを信じてみたいと思った。

 

初デート後から、私たちは何度も一緒に出かけるようになった。

彰君とは、休みが合う時は、食事をしたり、散歩をしたり、少し遠くまでドライブに行ったりして、毎回楽しい時間を過ごしていた。彼との会話はいつも自然で、心地よく、笑い合う瞬間がどんどん増えていった。

 

だけど、何かが足りなかった。

 

そう感じ始めたのは、二人で何度目かのデートを終えた帰り道だった。

駅の近くのカフェで遅めのランチをして、そのまま一緒に散歩をしていた。

夕暮れ時の街並みは美しくて、彰君と手を繋ぐような距離感で歩きながら、心の奥にぽっかりと穴が開いているような感覚があった。

 

私たちの関係は、

どこに向かっているのだろう?

何度もデートを重ね、身体を重ね、楽しい時間を共有しているけれど、結局のところ、彰君からは一度も「好きだよ」とは言われなかった。

最初のキスが、まるであの日だけの魔法だったかのように、それ以降、彼はそれ以上のアクションを起こしてこない。

 

私はいつも彼の隣にいて、彼を想っていた。でも、それが「恋人」としての距離なのか、「友達」としての距離なのかが、次第に曖昧になっていった。

 

ある日、二人で食事に行った帰り道、我慢できなくなって、私は勇気を振り絞って聞いた。

 

『ねぇ、彰君…私たちって、どういう関係なのかな?』

 

その言葉を口にした瞬間、心臓がドキドキと大きく鳴った。いつもは気楽に話せるのに、この時ばかりは自分でも信じられないくらい緊張していた。

 

彰君は少し驚いた顔をして、短く笑った。

けれど、その笑顔の裏には、何かはっきりしないものが感じられた。

 

『うーん、なんだろうね……。

  俺たち、いい友達じゃん?』

 

その一言が、胸にずしんと重くのしかかった。

そう、やっぱり私たちは「友達」以上にはなれないのだろうか。

私はそれ以上何も言えなくなってしまい、

ただ黙ってうなずいた。

 

その後も、私たちは何度か会い続けた。

食事をしたり、休日にふと連絡を取って一緒に出かけたりした。

でも、私の心には常にモヤモヤしたものが残っていた。

彼と一緒にいると楽しいけれど、その関係に名前がつかないまま、ただ時間だけが過ぎていく。

 

私の気持ちは変わらず、彰君のことが好きだった。けれど、彼からは告白されることは一度もなかった。

あの最初のキス以降、二人の関係は進展することなく、セフレのような状態のままだった。

 

私はいつも、彼からの「好きだよ」という言葉を待っていた。でも、その言葉は結局、聞けることはなかった。

 

それでも、私は彼と一緒に過ごす時間が好きだったし、彼も私との時間を楽しんでいるようだった。

だから、何かをはっきりさせるのが怖くて、その曖昧な関係に甘んじてしまっていたのかもしれない。

 

時々、彼が他の女性と話しているのを見たり、彼の恋愛について話すのを聞いたりすると、胸が苦しくなったけれど、私はそれを口にすることはできなかった。

だって、彼は私に対して特別な感情を抱いているとは言っていないし、私たちは「恋人」ではなかったから。

 

時間が経つにつれ、私は次第にその関係に慣れていった。

でも、心の奥底では、いつか彼が私に告白してくれるのではないかという淡い期待を抱き続けていた。 

 

そんな曖昧な関係が続いたある日、彰君から突然、ショックな話を聞かされた。

 

『実は…仕事を辞めることにしたんだ。

   そして、地元に帰ることに決めた。』

 

その言葉を聞いた瞬間、胸がギュッと締め付けられた。心臓がドキドキするのが自分でもわかるくらい早くなり、頭が真っ白になった。何を言っていいのかわからないまま、ただ彰君を見つめていた。

 

『え…地元に帰るって…本当に?』

 

言葉がやっと出てきたけれど、それはまるで他人事のように聞こえて、自分がその質問を口にしたことすら実感が湧かなかった。 

 

彰君は、少し寂しそうに笑いながら答えた。

 

『うん、そうなんだ。

家族の事情もあってさ、地元に戻るのがベストだと思った。

こっちでの仕事は楽しかったけど、やっぱり家族の近くにいたいなって』

 

その瞬間、私は自分の中にある気持ちが溢れ出しそうになった。

ずっと好きでいた彼が、急にいなくなってしまう…。

今まで、彼との曖昧な関係に甘んじていたけれど、これで本当に終わってしまうのかもしれないという現実が、急速に私に押し寄せてきた。

 

『そっか…そしたら、もう会えなくなるね』

 

なんとか言葉を絞り出したけれど、声が震えているのが自分でもわかった。彰君は私のその様子に気づいたのか、優しく私の肩に手を置いてくれた。

 

『いや、そんなことないよ。

離れても、連絡は取り続けるし、地元に帰っても遊びに来ることだってできるさ』

 

そう言って彼は笑ったけれど、その言葉がどれだけ現実的なのか、私にはわからなかった。彼がいなくなるという事実が重くのしかかり、どうしても笑顔にはなれなかった。

 

『彰君…』

 

どうしても言いたいことがあった。

でも、今更「好き」と伝えても、何も変わらないような気がした。

この関係が曖昧なままだったのは、結局、私も彼に対して何も行動を起こさなかったからだ。今、彼に告白したとしても、すでに遅いのかもしれない。

 

それでも、どうしてもこのまま何も言わずに彼を見送ることはできなかった。

少しだけ勇気を振り絞って、私は言葉を続けた。

 

『本当に今までありがとう。

彰君と一緒に過ごした時間は、私にとって大切な思い出だよ。これからも元気で、頑張ってね』

 

自分でも驚くほど冷静なトーンで、そんな別れの挨拶をしてしまった。もっと感情的に、彼を引き止めるような言葉を言いたかったはずなのに、気持ちを抑えてしまった自分が悔しかった。

 

彰君は少し寂しそうに私を見つめ、優しく微笑んだ。

 

『ありがとう。俺も、万理華と過ごした時間はすごく楽しかったよ。本当に感謝してる』

 

それ以上、私たちは何も言わなかった。

まるで、すべてが終わってしまったかのような静かな時間が流れていた。

 

その夜、家に帰る途中、私は涙がこぼれそうになるのを必死で堪えていた。

いつか、彰君が私に「好きだ」と言ってくれることを待っていたけれど、その言葉を聞くことは一度もなかった。

そして、私も自分の気持ちを伝えることができなかった。

 

セフレのままで終わってしまったこの関係。

 

『私たちはこれからどうなるのだろう…?』

 

遠く離れてしまったら、今のように気軽に会うことも、楽しく話すこともできなくなるのだろうか。

 

歩きながら、ふとスマホを取り出して彼の連絡先を見つめた。

今なら、まだ間に合うかもしれない。

もう一度、彼に連絡をして、自分の気持ちを伝えるべきなのかもしれない。

だけど、私は画面を見つめたまま、そのメッセージを送ることができなかった。

 

私はただ、歩き続けるしかなかった。

 

彰君が地元に帰ってから、

あっという間に2、3ヶ月が過ぎた。

最初は連絡を取る頻度が少し減ったように感じたけれど、定期的にメッセージをくれる彰君のおかげで、完全に途絶えることはなかった。

 

そして、ある日、突然彼からこんなメッセージが届いた。

 

『今度、地元に遊びに来ない?

 俺のオススメの場所、いろいろ案内するよ』

 

それは、私にとって意外で嬉しい誘いだった。遠く離れてしまってから、会うことはもう難しいのかなと思っていたからだ。

もちろん、即答で「行く!」と返事をした。

 

久しぶりに会える喜びと、少しの不安を胸に、私はバスに乗って、彰君の地元に向かった。車窓から流れる風景を見ながら、再会する瞬間を何度も想像していた。

彼との再会がどんな感じなのか、今度はどんな関係になるのか。

心の奥で、彼女になれるかもしれないという淡い期待も膨らんでいた。

 

地元のバス停に着くと、彰君が待っていてくれた。久しぶりに会う彼の姿は変わっていなかったけれど、どこか落ち着いた雰囲気があって、大人っぽく見えた。

 

『久しぶりだね!

わざわざ来てくれてありがとう』

 

彰君は笑顔で私を迎えてくれ、その笑顔を見るだけで、緊張が少し和らいだ。

 

『こちらこそ、誘ってくれてありがとう。

すごく楽しみにしてたよ』

 

そう言いながらも、私の胸は再びドキドキしていた。彼が地元でどう過ごしているのか、私たちの関係がこれからどうなるのか、考えれば考えるほど期待と不安が交錯していた。

 

それから、彰君の案内で彼の地元の観光地を巡り始めた。

まずは、地元で有名な神社に連れて行ってくれた。

山の中にひっそりと佇むその場所は、静かで神聖な空気が漂っていて、まるで時間が止まったかのような感覚に包まれた。

彰君は、そこで昔よく友達と遊んだ思い出話をしてくれた。

 

『ここでさ、よく地元の友達と夜中まで語り合ったり、星を見たりしてたんだよ。

懐かしいな…。』

 

彰君のそんな姿を見て、私は彼のことをさらに知りたいと思う気持ちが強くなっていった。

 

次に連れて行ってもらったのは、彰君が通っていた高校が見えるカフェだった。

彼は、高校の話を少し照れたように、微笑んで話し始めた。

 

『ここから見えるあれ、俺が通ってた高校なんだ。』

 

と、彼は窓の外を指差しながら話し始めた。

 

『へえ、あそこが彰君の母校なんだね。』

 

と私はその方向に目を向けた。

広いグラウンドや大きな校舎が夕陽に照らされ、どこか懐かしい雰囲気が漂っていた。

 

『このカフェは、学生の頃よく来てたんだ。部活帰りとか、友達とテスト勉強しながらさ。あの頃は、ここで過ごす時間がすごく楽しかったな……。』

 

彼の声にはどこか懐かしさが滲んでいた。

 

『体育館の裏手でよく友達と集まって、夜遅くまで話し込んだり。

あの頃は、未来がどうなるかなんて全然考えてなかったな。

ただ、毎日が楽しくて、先のことなんてどうでもいいと思ってた。』

 

彰君の言葉を聞いていると、彼の高校生活が目に浮かぶようだった。

窓の向こうに見える校舎は、まるで彼の青春を映し出すスクリーンのようで、私は彼が過ごした日々を想像しながら、その話に引き込まれていった。

 

『万理華にも、あの頃の俺を見てもらいたかったな。結構、真面目だったんだよ?』

 

と彰君が笑いながら言った。

 

『ほんと? それはちょっと信じられないな~』

 

と私は冗談めかして返したが、心の中では彼の過去に少しでも触れられたことが嬉しかった。

 

彼の青春の一部を共有できたような気がして、私の気持ちはますます深まっていった。ここで過ごした時間や彼の思い出を聞いていると、私ももっと彼に近づきたいと思わずにはいられなかった。

そして、いつか彼女になれるかもしれない、そんな淡い期待も心の中で膨らんでいた。

 

夕方の柔らかな光がカフェの中を照らし、私たちはしばらくの間、その窓から見える高校を眺めながら、静かに時を過ごした。

 

カフェを出て、私たちは雑談をしながらドライブを楽しんでいた。

夕方が近づき、街全体がオレンジ色に染まる頃、ふと彰君が私の方を見て、こう言った。

 

『今日は本当に来てくれてありがとう。

  久しぶりに会えて嬉しかったよ。』

 

その言葉を聞いて、私はどうしても気持ちを伝えたくなった。

彼女になりたい、もっと彼と近づきたいという思いがあふれ出そうになっていた。

 

けれど、そのタイミングで彰君がまたあの笑顔で言った。

 

『また遊びに来てね。

これからも、友達としてずっと仲良くしていこう。』

 

その言葉を聞いた瞬間、私の胸に小さな痛みが走った。友達…やっぱり、彼にとって私はそれ以上にはならないのかもしれない。

けれど、それでも私は、彼の隣にいられるだけで嬉しかった。

 

『うん、もちろん。また会おうね。』

 

私は微笑んでそう答えた。

彼の彼女になれるかもしれないという期待は少しだけ薄れてしまったけれど、それでも彼と過ごす時間は特別なものだった。

 

彰の地元へお誘い後の帰り道。

バスに揺られながら、窓の外をぼんやりと眺めていた。

夜の闇が街を包み込み、街灯の光が静かに流れていく。車内は薄暗く、乗客たちは皆、静かに自分の時間を過ごしているようだった。シートに深く体を預け、私は自分の心に問いかけた。

 

これでいいのだろうか?

このまま、何も言わずに彼との関係を続けていくべきなのか。

それとも、もう一歩踏み出して、自分の気持ちを伝えるべきなのか。

 

バスの心地よい振動が、私の迷いを一層浮き彫りにするようだった。

彼との距離は確かに縮まっていた。

楽しい時間を共有し、時には冗談を言い合いながら笑い合った。

でも、セフレという微妙な関係は、私の心を揺さぶり続けていた。

 

『彼にとって、私はどんな存在なんだろう?』

 

そんな疑問が頭の中をぐるぐると巡り、答えが見つからないまま、ただ時間だけが過ぎていく。

バスは時折、停留所に止まり、またゆっくりと走り出す。

そのリズムに合わせるように、私の考えも揺れ動いていた。

 

窓ガラスに映る自分のぼんやりとした姿を見つめながら、私はふと感じた。

このままではいけないかもしれない。

彼にどう思われるか分からなくても、自分の気持ちを伝えなければ、後悔してしまうかもしれないと。

 

バスは夜の道を進み続ける。

私の心も、少しずつ答えに近づいている気がした。でも、決断はまだ先のこと。

揺れるバスに身を任せながら、私は静かに自分の心と向き合い続けた。

 

彰の地元デートから数ヶ月後、何気なくスマホを手に取り、インスタグラムを開いた。

いつものように友達の投稿を眺めていると、ふと、彰君のアカウントを確認したくなった。

最後に会った時から、私たちは特に連絡を取っていなかったけれど、どこかで彼の近況が気になっていたのだ。

 

彰君の最新の投稿を見て、一瞬、呼吸が止まった。

 

写真には、彼と彼女らしき女性が仲良く寄り添っている姿が写っていた。

そして、その写真の下にはこう書かれていた。

 

『最愛の人に出会えて感謝』

 

その言葉が、まるで私の胸に突き刺さるようだった。ずっと心のどこかで、もしかしたら私が彼女になれるかもしれないという期待を抱いていたけれど、今、目の前にある現実は私のその淡い夢を打ち砕いた。

 

私は彼女にはなれなかったのだ。

 

その瞬間、心の中にぽっかりと穴が空いたような感覚に襲われた。何度もスマホの画面を見返したけれど、その現実は変わらない。 

彰君が見つけた「最愛の人」は私ではなかった。

 

悲しみと虚しさが押し寄せてきた。 

私は彼にとって、ただのセフレの存在に過ぎなかったのだと、改めて感じさせられた。

それでも、彼に対して特別な感情を抱いていた自分を否定することはできなかった。

 

それから、私は彰君に連絡を取ることもなくなり、彼からも連絡は来なかった。

あれだけ近くに感じていた彼とのつながりは、まるで砂が指の間からこぼれ落ちるように、あっけなく消えてしまったのだ。

 

時々、彼のことを思い出しては、あの日のデートやカフェでの会話を振り返ることがあった。

しかし、その思い出はもう過去のものであり、私たちの関係はそれきりだった。

 

セフレのまま終わってしまった関係。

結局、私は彼女にはなれなかったけれど、それでも彼と過ごした時間は、私にとって忘れられない大切な思い出だった。

 

(了)

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