好みの男といい感じになったら極道の人だった話
冬が長くなんとなく寂しい雰囲気の地元から、活気あふれる関西の街へと上京した18歳の春。
その頃の私は純粋で、悪くいってしまうと世間知らずだった。過干渉な田舎から脱出し、誰も知り合いがいない街で一人暮らし。心は自由そのもので、最高に気分が良かった。
大学での生活は順調だった。試験会場で知り合った同期と入学式に出席し、新入生獲得に賑やかになっているサークルの見学をはしごした。
その中で目に留まったサークルがあった。ゲームサークル。ゲームならなんでも持ち込みOK。サークル内でのんびり楽しく過ごそうというゆるさが良くて、そこに入った。
先輩はオタクっぽい人、普通の人、おしゃれな人。かなり幅広い人種がいた。
そんな人たちの中、私の目は一人を追っていた。
同期の男の子。金に染めた髪が少し長くて、一つに括っている少しチャラい雰囲気。高身長で手足がすらっとしていて、かっこいい部類に入る容姿。ゲームの筋が良く、特に麻雀やポーカーなどの賭け事の類が得意。関西特有のトークの面白さで先輩たちに気に入られていた。
いつも人の笑顔に囲まれている彼が気になっていた。ゲームを介して交流を深めていく中、次第にサークル以外で過ごす時間が増えていた。
入学から1か月過ぎたGW。新入生歓迎会のあと、実家暮らしの彼が終電を逃した。
歓迎会の会場は大学からすぐの居酒屋。私の家は大学から徒歩10分ほどだった。
「…うち、来る?」
ドキドキしながら、期待を胸に呟いてみる。恋愛経験はあった。ただプラトニックなものだったので、私は処女だった。
彼は困ったような表情を浮かべたが、目の奥には熱があるように見えた。
「いいの?」
「タクシーは高いと思うし…」
「……。嫌じゃない?」
その問いに頷くと、彼は手をつないできた。
家こっちだよね、と歩き出す。何で知ってるの?と聞くと、前言ってるの覚えてたと照れたように笑う彼に、胸が高鳴った。
「…ふぅ…!?」
家に着き、扉を閉めたらすぐに唇を奪われた。
押し込まれてくる彼の舌が熱く、火傷しそうな気がした。荒い息遣いのまま、繰り返されるキス。遊ぶように愛撫していた手は徐々に下へと移動していった。
経験がない私は少し身を震わせつつ、与えられる刺激を受け入れていた。男の人に触られる感覚はこんなものなのかと冷静に状況を把握する中、未知の感覚に興奮で心臓がはちきれそうになっていた。
「あっ!」
下着の中に手を入れられ、中に指を入れられた瞬間、大きな声が出た。自分でも触ったことがところまで、指が入っていた。
「…びっしょびしょ」
耳元で楽しそうに囁かれる声。そのまま耳を甘く食まれた。
「やぁ…」
恥ずかしさと高揚で涙が込み上げてきた。
律動を始める指に荒い息が出始める。立てなくなって、腰が抜けると彼が支えてくれた。玄関マットの上に仰向けに寝かされる。その上に、私よりひと回り大きな体が乗ってきた。ちょっとの恐怖とぬくもりの安心感があった。
ぼうっとしていると、そのまま彼がコンドームをつけ始めていた。やっぱりこういう経験が豊富なのかな…と少しだけやきもちのような気持ちを感じた。
硬いものを押し付けられる感触がして、びくりと体が跳ねた。
「大丈夫?」
優しい問いかけも、分らなくなっていた私。早く終わらせたい一心で、こくりと頷いて彼を抱きしめる。
ゆっくりと体の中心に異物が入り込んでくる感覚。自分でも聞いたことがない上擦った声を長く吐き出した。
「あっつ…」
獣のような低い唸り声を出しながら、彼は緩慢に動いていた。私は過呼吸のような息をしながら、耐えていた。痛くも気持ちよくもない、感覚が無くなったような心地だった。
セックスはこんなものなのかとぼんやり考えていると、彼が呻き声を上げた。ずるりと中のものが抜かれる。少しの喪失感と、達成感が共存していた。
はあ。二人そろって熱い息を吐いた。それが行為の終了の合図だった。
シャワーは別々に入った。足がふわふわしていたせいで心配させたが、悪い気分ではなかったので大丈夫だと押し切った。まだ明るい場所で体を見られるのは恥ずかしかった。
ソファで並んで冷たい紅茶を飲みつつ、まったりしていた。
「あの…」
「ん?」甘えた顔。見たことがない表情にときめく。
「付き合う、ってことでいいのかな…」
先ほどまで処女だった私は、そこははっきりさせたくて切り出した。彼はくすっと微笑みながら、頷く。
「なんでもええよ。愛人でも、ペットでも」
「普通に恋人で!」
なんだその例は、と混乱しながら即答する。
彼は嬉しそうに分かった、と答えるが、あっと声を上げた。
「俺の家族ちょっと問題あってさ」
「なに?」
「親父は刑務所入ってたことあるし、死んだ爺さんはやくざの組長だったりしたんだけど、大丈夫?」
衝撃過ぎて意味が分からなかった。少し前に流行った極道の孫が教師をしているドラマを思い出した。
全く、大丈夫ではなかった。普通の家庭でも駄目だろうが、私の家は両親が公務員だった。
後日調べたところ、お祖父さんは戦後の賭場を仕切っていた方だった。だから麻雀が得意だったんだなと納得した。
(了)
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