再会の夜〜密やかな熱〜
「ねぇ、正直に言って」
彼がソファの隣に座りながら、低い声で囁く。
「君も、思い出してたでしょ?あの夜のこと」
グラスの中で揺れるウイスキーの琥珀色に目を落としたまま、私は黙っていた。
否定すれば嘘になる。思い出していた。何度も。
「…思い出すたびに、自分が自分じゃない気がしてました」
その言葉に、彼はふっと微笑む。
「それが本当の君だったんじゃないかな」
静かにグラスを置く音だけが部屋に響いた。
彼の指先が、私の頬をすくい、喉元に沿って、鎖骨のあたりへと滑っていく。スーツの襟の隙間から、熱がじわじわと染み込んでくる。
「今日は、触れていい?」
答える間もなく、唇がふわりと重なる。
強くも弱くもない、ただ熱を伝えるためだけのキス。
でも、それだけで全身が痺れた。思い出してしまったあのときの感触を。呼吸が、、、浅くなる。
「ねえ、ずっと考えてたよ」
キスの合間に、彼が囁く。
「スーツ越しでもわかるんだよ、君が俺を受け入れてたって。声、体温、全部…嘘つけないでしょ?」
彼の手が、ジャケットのボタンに触れる。ひとつ、外されるたびに空気が変わっていく。
「あのとき、モデルルームの壁に背中を預けてた君。すごく…綺麗だった」
彼の手が、私の腰にまわる。指先が、スカートのウエストをなぞる。
「ねえ、今夜は誰にも邪魔されない」
スカートの中、タイツ越しに触れる彼の手の温度が、もう理性を削っていく。
息を呑むと、彼の声が耳元に届く。
「ちゃんと君の声、聞きたい。今夜は…我慢なんかしなくていいよ」
身体が彼に預けられていくのを止められなかった。
熱く、柔らかく、でもどこか苦しいほどの安心感が、全身を覆っていく。
「…どうしてこんなに、平然としていられるんですか」
「平気なフリをしてるだけだよ。ずっと…君のこと、抱きたかった」
そう言いながら、彼は私の手を取り、自分の胸元へと導く。
鼓動が早い。彼も、抑えていたのだ。
シャツの隙間から触れた素肌が、思ったより熱かった。
その熱に引き寄せられるように、私の唇が自然と近づいていく。
「もう、戻れなくなっても…いいんですか?」
「いいよ。戻る気なんて、最初からなかった」
そして、ふたりはソファに深く沈み込んだ。
夜の静寂に、かすかに混じる吐息と、布の擦れる音。
指先、唇、視線…そのすべてで、確かめ合うように重なっていく身体。
何度も名前を呼ばれ、何度も指を絡めて、
私はただ“オンナ”として、彼の熱をまっすぐ受け止めていた。
あの夜、あの部屋で。
私は誰よりも本音の自分をさらけ出していた。
もう“たまたま”なんかじゃない。
すでに、始まりだったのかもしれない。
(了)
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