初めて人と飲みに行った日
私は高校入学当初から続けているアルバイトがあった。
チェーンの飲食店で、学生からはあまり人気のないバイト先だった。忙しすぎるとか、厳しすぎるとか。そんな理由で特に、女子学生からの人気は全くなかった。
働き始めた当初、そんな評判があるのは知らず、近所だからと働き始めた。確かにきつかったし、給料に見合ってないと思うことも多々あったけれど、辞めて新しいバイト先を探す方が面倒で、結局大学卒業まで私はそこで働き続けていた。
これは、そんな働いているバイト先での話。
大学生になってすぐの19歳の頃。そのバイト先の外国人副店長が国に帰るため、退社をすることになった。明るく優しい人だったので、アルバイト数名でその副店長の送別会をやることになった。
送別会の主催は、アルバイトの中心人物であった浅田くん(仮称)。
浅田くんは、大学3年生で私より年上。土日しか出勤しない人だったけれど、テキパキ働く様子が好印象だった。
送別会に参加したメンバーはみんな私より年上。けれど、高校入学当初からアルバイトを続けている私より、バイト歴は後輩だった。
大体10名くらいだっただろうか。そのうち女子は私を含め2人だけ。
送別会は居酒屋で開かれた。私はその時まだ19歳だったので店では酒を提供してもらえなかった。もちろんこの時点で飲酒したことはある。けれど外ではやはり提供してもらえなかった。
みんなが楽しそうに酒を飲む中、私だけが飲めない空間。
浅田くんは主催ということもあり、だいぶセーブしていたものの、他のメンバーは次から次へと酒を口に運んでいた。
次第に、素面である私に絡んでくるバイトまで現れた。
正直うんざりしてきた頃、浅田くんが送別会を終わらせてくれた。
浅田くんは、私がすでに飲酒していることを知っていたので、この後飲み直すかと提案してくれた。
せっかくと思い、私たちはコンビニに寄って酒を買い、浅田くんの家で飲み直すことにした。
浅田くんは、送別会の間、酔って私に絡んできたバイトが、私に惚れているということを教えてくれた。
浅田くんは、相手をしてやれば良かったのにと笑っていたが、残念ながら私はその彼に全く興味はなかった。
間接的にそのバイトを振った私に、浅田くんは彼氏がいるのかと尋ねた。
当時付き合っている人はいなかったので、正直に答えた。浅田くんは、私をタイプではないと言い出して、浅田くんも悪酔いしてダル絡みをしてきたのかとイラっとした。
その怒りの反動で、私の酒を飲むペースが早くなった。
私は人より…いや相当酒が強いので、飲んでもほとんど酔わない。
私のペースに合わせて飲んでいた浅田くんが、だんだんと私との距離を縮めてきた。
別に浅田くんのことは嫌いではないが、そういう目で見たことはない。
私はお手洗いだけ借りて、帰宅することにした。
お手洗いから出て、浅田くんに挨拶だけしようとしたとき、ふと浅田くんのモノが目に入った。柔らかいスウェットを履いていたせいもあるだろう。勃っているのがすぐにわかった。それが浅田くんの可愛らしい顔からは想像できないサイズだったのも丸わかり。
私はその日、逃げるように帰った。
送別会の事も、浅田くんの家で飲み直したことも忘れかけたころ。
私は誕生日が過ぎ、成人。
当時はコロナ渦でほとんどの大学の講義はオンライン。2週間に1回大学に行けばいい方だった。
その日は、せっかくの登校日だったにも関わらず、人身事故が起き、今から迂回して電車に乗っても講義には間に合わなかった私は、ズル休みをすることにした。
バイトもシフトが入っていない日だったので、最寄りの駅のカラオケで暇をつぶし、一人居酒屋デビューでもしようかと思っていた。
そしたらなんとびっくり。カラオケの受付にいたのは、バイト先の人だった。
バイト先は飲食店だったこともあり、コロナの打撃を受けていた。アルバイトのメンバーは歴の長い人や作業の早い人たちでシフトを組まれるようになってしまった。そのため、ダブルワークをし始めたのだという。
そのバイトだけでなく、割とダブルワークを始めた人は多いんだとか。
浅田くんもダブルワークを始めたそうで、何をしているのかとそのバイトに尋ねたが、浅田くんから口止めされていると教えてくれなかった。
気になった私は、次に浅田くんとシフトが被ったときに尋ねてみた。
浅田くんはそもそもダブルワークを始めたことが私に知られていること自体に驚いていたが、しばらく考え込んだあと、バイト終わりにダブルワークの現場に連れて行ってくれると言った。
バイト終わり、浅田くんについていくと、たどり着いたのは浅田くんの家だった。
てっきりバーか何かで恰好つけてるのか思っていたので、意味がわからなかった。
「どういうこと?」
「実際にはここは現場じゃないんだけど…。こういう場所が現場になる」
「…は?」
とりあえず、浅田くんの家にあがると、前と大きくは変わっていなかった。
しかし、気になったのはベッドの上のラブグッズだった。
「こういうのはさ、ちゃんとしまいなさいよ」
「だって仕事道具だもん」
そういうなり、浅田くんは手早くラブグッズを起動し、私に当ててきた。
怒鳴りながら抵抗すると、浅田くんはダブルワークについて教えてくれた。
「女性用風俗。たまにだけど、そういうののアプリで依頼が来て、女の子の相手してんの」
びっくりしているうちに、浅田くんは手慣れたように私を襲ってきた。
私は依頼もしていないし、そういうつもりで家に来たんじゃないと抵抗したものの、想定以上に力が強くて、びくともしなかった。
「興味があるから聞いてきたんでしょ?初回サービスで無料だよ」
と浅田くんは仕事でのテクニックで私に触れてきた。
抵抗する体力もなくなり、驚きや戸惑いが快感に変わっていく。
明日からバイト先でどんな顔で会えばいいのか。そんな懸念だけが残ったまま、私は浅田くんにされるがままになった。
翌日以降、浅田くんと私は偶然にもシフトが被らなかった。
1か月後、いつの間にか浅田くんはバイトを辞めていた。元々連絡先も知らないので、浅田くんがなぜ辞めたのかもわからない。
自分のせい?
そう思ったが、よく考えてみれば浅田くんは大学4年で、今は3月。社会人になる浅田くんが辞めるのは当然だった。
(了)
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