契約より先に濡れてしまった、営業ウーマンの夜

・作

私は都内で働く不動産営業、20代後半の独身女性です。日々、いろんなお客様と接する中で、時にはちょっとドキッとするような出会いもありますが―この日はまさか、ここまでになるとは思いませんでした。

その日、担当したのは40代半ばの男性。仕事帰りにスーツ姿で、落ち着いた雰囲気の、いわゆる「余裕のある大人の男性」といった印象でした。年上の男性って、なぜか妙に惹かれてしまうタイプなので、私はどこか最初から気になっていたのかもしれません。

「駅チカで、できれば少し広めのワンルームがいい」との希望だったので、私は比較的新しくて空室の出ていたマンションにご案内することにしました。

日も落ちて、内見は少し遅めの時間に。エントランスを抜け、エレベーターで2人きりになった瞬間、彼がふとこちらを見て微笑んだその顔が妙に色っぽくて―正直、その時点で私の頭は少しだけぼんやりしていました。

室内に入ると、照明はダウンライトだけの柔らかい明かり。玄関を上がった瞬間、彼が後ろからスッと距離を詰めてきて、「ちょっとだけ、ここでゆっくりしていい?」と言われたんです。

内見中に座るなんて珍しくないけど、その目は完全に“仕事”じゃない目で、私の体を見ていました。

「…そんなにジロジロ見ないでくださいよ」

そう言ったつもりだったのに、次の瞬間には、私の腰に手がまわってきて、後ろから軽く抱き寄せられて。

息がかかるほど近い距離。彼の手がスーツの上から私の胸元をなぞると、思わず声が漏れそうになってしまいました。

「ここ、モデルルームだから少しぐらい音出しても大丈夫だよ」

そんな言葉に火がついて、私はもう抗う気持ちよりも、彼の手のぬくもりに身体が反応してしまっていました。

壁際に押しつけられて、スカートの中にするりと彼の指が入ってきた時には、理性なんてもう残っていませんでした。誰にも見られない密室。こんな場所で、しかもお客様相手に――。

けれど、感じてしまうものは止められなくて、気づけば私は彼に腰を預け、声を必死に噛み殺していました。

「ずっと我慢してたんだ、君みたいなタイプ、好きなんだよ」

彼のその一言に、胸の奥がきゅっと締めつけられました。欲望だけじゃない、どこか甘い熱が心に染みていったんです。こんなふうに求められるのって、いつぶりだろう――。

終わったあと、彼は何事もなかったようにスーツを整えながら、

「ここ、気に入ったよ。契約、お願いしようかな」

そう言って微笑んだんです。

まさか契約のお礼が体だった…なんて冗談みたいな話ですが、あの夜、私は久しぶりに“オンナ”として見られた気がしました。

不動産の仕事って、毎日が出会いの連続。でも、この仕事をしていて本当に良かったと思えたのは、あの密室で交わした、あの熱、、、忘れられません。

(了)

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