優しい先輩の本性〜飲食チェーン店に入社した末路〜
入社と同時に、初めての一人暮らし。すべてが新しいことだらけで、とてもワクワクしていた。
配属店舗に初めて出勤した日。
初出勤で日曜日。お店は大混雑で、初日からてんてこまいだった。
そんな中、私はその店舗の社員、斎藤さん(仮称)に一目ぼれした。
斎藤さんは私より年上で、ちょっとチャラチャラした人。別にイケメンというわけではなかったが、私の好みの顔だった。
新入社員の私にすごく優しくて、どんな質問にも答えてくれて、サポートしてくれた。
少しずつ仕事に慣れてきた6月。
斎藤さんが私をご飯に誘ってくれた。それをきっかけに、私たちは付き合うことになった。
斎藤さんはまだこのころ、私への好意はなかったと思う。
私が素直に斎藤さんが好みだと伝えたら、流れで付き合うことになったからだ。
付き合い始めてからというもの、休みが被る日は一緒にいることが多くなった。
外に出かけるのはもちろん、お互いの家で、ただひたすらにセックスをして過ごすこともあった。
斎藤さんはあまり一人ではシないらしい。彼女が出来るのも数年ぶりだそうで、溜まっていたのかもしれない。
会うたびに、体を重ねていた。
店長にも、店舗のスタッフにも内緒の関係。
後々に聞いた話だが、一緒に帰る姿が目撃されていたり、仕事中にこっそり「今日家来る?」といった会話を盗み聞かれていたそうで、バレバレだったらしい。
でもその頃はその秘密の関係が楽しくて仕方なかった。
しかし、その楽しい日々は半年ほど経った11月に、ある男によって壊された。
11月初めのころ、私の店舗に西野(仮称)という社員が異動してきた。
西野さんは私の一つ先輩で、どうやら副店長から降格して、一般社員として異動してきたらしい。
降格の理由は知らなかったが、優しい雰囲気と真面目に仕事をこなす姿から、降格するような人間には見えなかった。
ある日、そんな西野さんと二人でお店の締め作業をしていた。
その日、西野さんは私を食事に誘ってきた。付き合っている斎藤さんは、私が他の男性と二人でご飯に行くことをあまり気にしない。まして、会社の人間と一緒に食事を行くなら、会社の人間との横のつながりを増やす、いい機会だから行っておいでと言ってくれていた。
だから私は、快く了承した。
私と西野さんは、しゃぶしゃぶを食べに行った。
お酒も飲みながら、いろんな話をした。
けど、西野さんはお酒が弱かったらしい。お酒好きの私のペースに合わせて飲んでしまったせいで、お店を出るころには西野さんはふらふらだった。
こんな状態では家に帰れないのは一目瞭然。私は西野さんの家を知らないから送り届けるわけにもいかない。
新入社員で安月給だったので、タクシーに乗せてあげることも出来ない。
私の家は駅から徒歩3分もしないくらいの駅近だったので、酔いが冷めるまで、私の家で介抱することにした。
これが、失敗だった。
家につくと、西野さんは私のことが好きだと言い出した。
付き合ってほしいと。
丁重にお断りした私は、酔った勢いで言ってるだけだと、酔いを冷まそうとした。
けれど、男の人の力に勝てるわけもなく。
私は、大好きな斎藤さんの匂いがしみついた自分のベッドで、西野さんに襲われた。
頭にはいろんな考えが巡っていた。
斎藤さんへの申し訳なさ。
次の出勤で、斎藤さん、西野さんと会ったときにどんな顔をすればいいのか。
仮に警察などを呼んでしまったら、会社に迷惑がかかってしまう。
でも何より、私の頭を埋め尽くしたのは、斎藤さんに迷惑をかけたくない。
斎藤さんを傷つけたくない。
私は西野さんに、まるで悪い気はしていない風を装って、その時間を我慢することにした。
すっかり勘違いした西野さんは、翌日以降私への猛アタックを始めた。
次に告白したときは、イエスと言ってもらえるように頑張ります!
いい風に言えば、健気に私にアピールを始めた。
私は西野さんのアタックを上手く回避しながら、私か西野さんが別の店舗に異動するまで耐えることにした。
ただそれも上手くいかない。
事件はクリスマスに起きてしまった。
私は斎藤さんと一緒に過ごすことを決めていて、クリスマスの退勤後、斎藤さんの家に行くことになっていた。
しかしもちろん、西野さんも私を誘ってきたわけで。断っても、私の退勤時間まで待っていると言い出す始末。翌日も早いとか、生理だから体調がよくないとか。
なんとか言い訳を並べて、西野さんの誘いは断った。
飲食業なので、クリスマスは社員全員出勤。退勤時間は、西野さんが少し早く、私と斎藤さんの二人で締め作業をする形になっていた。
西野さんが先に帰り、他スタッフが帰ったのも見守った後、私と斎藤さんは一緒に帰った。
それを、西野さんに見られていた。
西野さんは車で出勤してきているのだが、お店近くのコインパーキングに車を止めて、私が出てくるのを待っていたらしい。
クリスマスの夜、斎藤さんの家につく頃、西野さんから連絡が来た。
『斎藤さんとお幸せに…』
怖くなった私は、せっかくのクリスマスに幸せな時間を過ごせなかった…。
年末年始。一番店が忙しくなる時期。
店長から話があると呼び出された。
聞けば、斎藤さんが店の売り上げ等の数値を不正に変えていると、本社に通報があったらしい。
もちろん斎藤さんはそんなことしていないし、店長も斎藤さんがそんなことをする人間じゃないのを知っている。
すると店長は、西野さんの降格理由を話し出した。
西野さんは、あの優しい雰囲気からは想像できないくらい、ひどいことをして降格していたらしい。
一番の降格理由は、前の店舗のアルバイトスタッフに手を出したというものだった。
斎藤さんに、店長に、会社に、迷惑をかけまいと、一度西野さんに体を許してしまった私のミスだった。
西野さんは、邪魔者である斎藤さんを会社から排除するために。私から遠ざけるために斎藤さんを傷つけた。
私は申し訳なさで頭がおかしくなりそうだった。
会社から離れようかとも思った。
しかし、降格という前科がある者の行動は誰にも信用されることはなかった。
通報の直後、私も西野さんも別の店舗に異動することが決まった。
西野さんは、遠い地方の店舗へ。私は、斎藤さんの勤めるお店に比較的近く、すぐに会いに行ける距離の店舗に。
こっそり付き合っていることに薄々感づいていた店長が、上手く上司に話を通してくれたのだと思う。
今も私は斎藤さんと付き合ってる。
西野さんとは連絡を取っていない。時々連絡は来るけれど、すべて無視している。
けれど、まだ同じ会社に勤めるもの同士。ふとしたことで再会してしまう可能性もあるのだ…。
(了)
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