わたしと、わたしを飼っていた男
まともな恋愛をしたことがない。
そう自負していて、友人にもよく溢していた。まともってなんだろう。自分が知っているモノが”まともではない”ということだけは、分かっていた。
大学生というモラトリアムにそれではあまりにもったいないと、友人が飲み会に誘ってくれた。他校のメンツも混ざった結構大きな集まりだった。
お酒が入ってにぎやかになっている空間。知らない男性がいるというだけでも緊張して、隅っこで壁の花になっていた。
「ねぇ。楽しんでる?」
「…あ、はい!」
ふにゃ、とした笑顔で声をかけてくれた男の子。この飲み会の幹事らしく、あちこちに顔を出して場を盛り上げているのを見かけていた。
「こういう集まり、苦手なの?」
「苦手というか、初めてでどうしたらいいか…」
答えに詰まり、苦笑いしか出てこなかった。ちびっと氷が溶けきったカクテルを飲む。もう味が分からない。
男の子は気を遣って、無難な話題を振ってくれる。受け答えしているだけでなんとなく肩の力が抜けてきた。
「そういえばまだ来れてないやつもいるし、二次会どう?」
「あー…」
言い淀んでいると、女の子は一人でもいてくれると助かるなんて言われてしまい、困った。友人を探すと、かなり盛り上がっているのであれは行くやつだなーと察する。
その時、周りがざわついた。遅れて合流組が到着したようだった。
すでに出来上がった酔っ払いに絡まれて転びかける人、抱き着かれた人といた。合流直後にあのテンションはきついなと同情していると、そのうちの一人と目が合う。
黒髪の、少し薄い一重の瞼をした男性。控えめな印象を持つが、笑顔が爽やかに思えた。向こうが見開いた目でこちらを見てくるので、知り合いだろうかと見返す。途端、さっと血の気が引いた。
硬直していると、男がゆっくりとした足取りでこちらの卓に近づいてきた。幹事の子が手をあげて歓迎する。
「良成~!」
「声でかいよ、お前」はは、と微笑む良成と呼ばれた男。
わたしが知っている笑顔と、全く質が違うものだった。
「この子、新顔の優衣ちゃん。可愛いだろ」
「……そうだね。よろしくね、優衣ちゃん」
肩に手を置かれて紹介される。彼はじっとその手を見つめていた。意味を悟り、さっと手を拒絶する。
「…あ、あの…」
「なぁ。もうそろそろ二次会に移動だろ?」
彼は幹事に散会を促す。幹事は思い出したようにはっとして席を立ち、全体に向かって一次会終了の声をかけた。同時に二次会の案内も始める。
それを遠い目で見つめた。横には、彼が座ってわたしの手を握ってきていた。
「……二次会、行かないよね?」
「…………」ぎゅっと痛いくらいに手を握りしめられ、頷くしかできなかった。
「…アッ、あぁ! やぁあっ」
パン、パン。肌同士がぶつかり合う音が響く。激しい律動に叫び声に似た嬌声が出てくる。
良成、よし君に。二次会を抜け出す形で、ホテルに連れてこられた。無言で腕を引っ張られて怖かった。部屋に入ってからはすぐに抱かれた。
「はぁ…!」熱い声が背後からかけられる。
グイと両腕を引っ張られ、体の密着を深いものにされた。
「あぁぁ!」
「はっ、優衣はすぐに気持ちよさそうに啼くよね。弱いとこも、全然変わってない……」
浅いところを擦られ、ビクッと体が震える。いつもこうだ。好き勝手に暴かれる。
「や、やぁぁ…」体を捻らせて抵抗するが、何の意味もない。意識が溶けていく。
よし君は受験の時、家庭教師をしてくれた大学生だった。
かっこいいお兄さんだと思っていた。ある日、突然抱かれた。興味はあった、初めてならよし君でいいとも思った。けど、年相応に夢描いていた恋とか愛とかじゃなかった。抱かれた日から、わたしは支配された。
家庭教師をしてもらう時は、家に二人きり。助けてくれる人は誰もいない。受験が終わるまでの半年間、わたしは飼われていた。
「ハハッ! 気持ちいくて仕方ないのに嫌がるの?」
ガッと乱暴に奥を突かれ、体が跳ねる。嫌なのに、久しぶりの深い刺激が快感だった。自分では届かない、深い場所。
「んっ! ンん!」涙が滲んでくる。
「志望校変えてまで、俺から逃げたの?」ハーッと熱い息が吐きだされて、肌をなでる。ぞくぞくした。
「んん…」
「でも、会っちゃったね」
ずるー…とゆっくり抜いていく。膨張した熱が無くなって、中がひくひくと痙攣する。まだ、足りない。持て余していた欲求が、身の内で逃げ場を失っている。
「…欲しい?」
「ほし…。く、ください…」一筋、涙がこぼれた。恋よりも先に、肉欲を知ってしまったことに絶望する。
よし君は鬱蒼と笑い、体重を乗せて深く深く、突いてきた。
よく出来ました、とわたしを従える言葉を発しながら。
(了)
レビューを書く