二人の私と、画面の向こうの彼
これは私が大学生の頃の話。
その頃、世間ではコロナウイルスが流行っていた。楽しみにしていたキャンパスライフはすべてリモート。自宅で講義を受ける毎日だった。
基本家にいる生活だったので、暇つぶしにオンラインゲームを開始した。元々ゲーム好きだった私はそのオンラインゲームにドはまり。オンライン講義の間に、そのゲームにのめりこんでいった。
ある日、そのゲームで男性プレイヤーと出会った。最初は普通に遊んだだけ。二回目に遊んだ日は、通話をしながら遊ぶことになった。しかし私は実家暮らしだったので、彼だけしゃべり、私はゲーム上のチャットで返信を返した。いわゆる聞き専というやつだ。
通話をすると自然と距離が近くなるもので、プライベートの話になった。男性は30代の独身で、飲食業勤務。私は大学生で、今まで彼氏はいたことがないと話した。
夜も更けてきて、ゲームをログアウトしたとき、彼がふと言った。
「もう少し遊ぶ?」
ゲームはやめているので、通話ツールで返信を返した。
『もうログアウトしちゃったよ』
「うん。でももう少し遊ばない?」
意味がわからなかった私は彼の言葉に従った。
彼の指示は、ベッドに入り、指を舐め、濡れた指で胸を触るというものだった。
彼は、私が指示に従っているという文章を見て興奮しているようだった。
少し笑った声で、次々に指示を出してくる。
そうして私たちは、片方が聞き専のテレフォンセックスを楽しんだのだ。
後日、お互いの顔写真だけ共有した。
ビデオ通話はしない。私は彼の声を聞き、彼は私のチャットを見て楽しんでいた。
基本的に彼は私に指示を出すだけ。私は指示に従うだけ。
でもビデオ通話や私の声を聞いているわけではないので、本当に私がシてるかどうかは彼にはわからない。
そのせいか、彼は指示を出すだけで、シている様子はなかった。
数日経ったころ、彼は配信をすると言い出した。
確かに彼は優しい声をしていて、配信には持ってこいだと思った。
私は彼の配信を応援しようと、配信を覗きにいった。てっきり私はゲーム配信を行っていると思っていたが、彼の配信内容は、『イケボ雑談配信』だった。
イケボという言葉に釣られた女性たちが、彼の声を聞きに来ている。もちろん、始めたばかりなので、視聴者数は少ない。しかし、時にエッチな内容を話す彼に、女性たちはハートの絵文字で反応していた。
なんとなくムカついた私は、とある行動に出た。
配信視聴アカウントをもう一つ作成し、新規視聴者として配信にもぐりこんだのだ。
私は新規様として歓迎され、彼の配信の常連になった。
このアカウントの設定は、30代独身の女。夜出勤の後に、イケボ配信を聞くことが趣味。経験豊富で、男女問わず色んな人と付き合ってきた。
そんな設定のもう一人の私と、彼は仲良くなっていった。
私と、もう一人の私が彼と密接になってきたころ。
もう一人の私に、彼が二人で話したいと言い出した。
聞き専ならと了承し、もう一人の私は、私と同じような形で通話を始めた。
通話ツールの向こうで一人喋る彼に、チャットで返すもう一人の私。
次第にエッチな話になり、彼の声に興奮が混じっているのがわかったその時。
彼は一人でシだした。
私も、もう一人の私も驚いた。
私に指示を出すだけで自分はシなかった彼が、もう一人の私の前でシている。
そんな彼に、もう一人の私は、彼に次はこうしろと指示を出し始めた。
普段の構図が逆転したのだ。
彼は私と、もう一人の私が同一人物であることには気づいていなかった。
二人のテレフォンセフレに囲まれて、いい気分だったのだろう。それが、どちらとも私だとは知らずに。
そんな構図を楽しんで数週間経ったころ。
彼は仕事が忙しくなり、配信をお休みした。彼は私と相変わらずテレフォンセックスをしていたが、「私とするときは、彼は指示を出すだけ」の状態が不満だったのだろう。
彼は配信をしていないにも関わらず、もう一人の私にしつこく連絡をしてきていた。
それらはすべて無視。
そして次第にゲームにログインすらしなくなった彼は、私とも疎遠になっていった。
約半年。彼と、私と、もう一人の私。
彼は今も知らない。二人のセフレは、一人による演技だったということを。
(了)
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