一度女にされた身体はもう男には戻れないの

・作

一度男性の身体を受け入れた女装者の身体はもう元には戻りません。幾ら彼と別れたと言っても身も心も女になってしまうともう男として社会に戻ることが出来なくなるのです。最初はゲイでなかった私もその一人で、ある男性に女にされてしまったことで、ゲイの世界へ足を踏み入れてしまいました。そして、大好きな彼との夫婦生活を夢見るようになったのです。

 

ある日のこと、女装をしていた私はトイレに行きたくなって地下道の端にある目立たないトイレに向かいました。女性の姿をしているといっても私は男性ですから女子トイレに入ることはできません。その頃はまだ多機能トイレなどと言う場所もなく、私は誰も人がいないことを確かめて素早く中へ入りました。

 

個室へ入るつもりでしたが、誰も人がいないのをいいことに私は小便器の前でスラックスを下ろしてショーツからお尻が半分覗いてしまう姿で用を足していました。するとトイレに突然一人の男性が入ってきたのです。私は慌てましたが、おしっこは直ぐに止まりません。そして、隣に並んだ男性の左手が私のお尻に触れました。ドキッとして私はその男性の顔を見るととても優しそうな笑顔を浮かべ「可愛いね。素敵だよ」と話しかけたのです。

 

私はそのトイレがゲイの集まる発展トイレだということを知らなかったです。その男性から「お茶でも飲みながらお話しませんか?」と誘われた私は彼の後に付いてあるお店に入っていきました。そこは女装者の集まるコミュニティスペースで、個室もある有名な場所でした。最初はバーカウンターでお話をしていましたが、熱心に彼に誘われて二人で個室へ入るといきなりキスをされて、気が付くと私は着ている物を脱がされて裸にされていました。

 

その日が私の初めて女にされた日になりました。初めてのセックスがあんなに痛いということを初めて知り、それが女なる印だということを経験したのです。ただ、それが嫌でもう絶対したくないとは思いませんでした。それは、その人が初めての私をとても大事に扱ってくれたからで、凄く優しく抱いてくれたからです。

 

それからアドレスを交換し、私たちは時々会うようになりました。そして、私の身体は次第に彼に馴染んでいきました。ただ、独身の彼と私は親子ほど年が離れているので、デートの時は親子の様に見えます。でも、私には大切な彼で、心から甘えることの出来る大切な人でした。そんなある日、彼から「一度私の実家に遊びに来てくれないか?」と誘われました。定年間近な彼はその後、実家で暮らすことを考えていたのです。

 

彼は都心から電車で1時間半も掛かる地方の駅で私を待っていてくれました。駅から車でしばらく走ると大きな一軒の農家に着きました。彼は「ここが俺の実家だよ。仕事を辞めたらここで慣れない畑をやりながら暮らすつもりだ」と言ったのです。それは、私に「一緒に住もう」というプロポーズだったのかもしれません。でも、私はそんな誘いに直ぐに返事をすることが出来ず、先伸ばしにしていました。

 

ただ、週末や連休の時は彼と一緒に過ごすうちに田舎暮らしにも慣れてきて、私が彼の母親が残していった古い着物や割烹着姿で台所にいるととても嬉しそうに見つめているのが分かりました。そして、夜は私を寝かせてくれない程激しく求められます。一晩中何度も何度もイカされて、そのまま寝落ちしてしまのです。朝、目が覚めると寝ている布団の周りにはいくつもティッシュが落ちでいて、とても恥ずかしい気持ちになりました。

 

ただ、休み明けには朝早く家を出て会社に向かわなければならないのが辛いのですが、いずれは彼と一緒に暮らすことを考え始めた頃、彼が定年退職の直前に倒れてしまったのです。私は毎日の様に彼の見舞いに病院に通い、看病しました。でも、そんな私の願いも叶わず、彼は入院から2か月後に帰らぬ人になりました。私は呆然としてしばらく仕事が手に着かず、彼のことばかりを考えて暮らす日々が続きました。

 

私は彼の妻でもなければ親族でもありません。葬儀には私は女装をして友人として参列して彼を見送りました。もう少しで彼の妻として一緒に暮らすことが出来たはずでしたが、それが私一人の夢に終わってしまいました。もうこの家に来ることもないと思うと悲しくて、寂しく東京へ戻ろうと思った時です。彼の従妹だという人に「あいつがゲイだということは俺も知っていたよ。あなたがあいつの彼女だったんだね。思い出の品があればどうか持って行ってくれ。あいつを死ぬまで大切に思ってくれたのはあなただけだから」と言ったのです。

 

私は彼が最後まで着ていたジャケットと二人で買った夫婦茶碗と箸をカバンに詰めて持ち帰りました。茶碗は出棺の時にもう家には戻らないという印に割ってしまうものなのですが、どうしても私にはそれが出来ず、彼の形見として今でも持っています。そして、ご飯を炊いた時にはそれによそって彼にお供えしています。

 

私は今でも一人で布団に入ると身体が疼いてしまい、彼の温もりを求めてお尻へ手が伸びてしまいます。彼の温かい精液で私を満たして欲しいと思うと涙が出て止まらなくなります。彼に毎日の様に求められ、女になってしまった私の身体はもう元へは戻らないのです。それから私は彼のために女として生きることにしました。彼は私にとってただ一人の男性です。子供が出来ないのは悲しいけれど、私の身体は彼のモノですから一生彼を思って過ごすことにしたのです。

 

(了)

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