バツイチ女が既婚者に溺れた夜

・作

離婚してから数年。寂しさに慣れたふりをしながらも、心と身体のどこかがずっと乾いていました。周囲から「もう再婚は?」と軽く聞かれても笑ってごまかすだけ。けれど夜、一人でベッドに横になると、女としての自分がこのまま消えていくような不安に襲われることがありました。

そんなときに現れたのが、取引先で知り合った年上の男性でした。穏やかで知的な雰囲気。彼が書類を渡す時にふと触れた指先の温かさに、不覚にも胸が高鳴ってしまったのを覚えています。

メッセージを重ねるうちに、彼の存在は私の日常の楽しみになっていました。けれど彼には家庭がある。理性では「絶対に一線は越えてはいけない」と分かっていました。それでも、彼の声を聞くだけで体温が上がるような感覚を抑えられなくなっていたのです。

その夜、彼から「どうしても会いたい」と呼び出され、私たちはホテルのラウンジで向き合いました。彼の視線は真剣で、どこか切なげで――次の瞬間、私は彼の手を握られていました。

「君に触れたい」

低く囁かれた声に、身体が震えました。ホテルの部屋に入ると、ドアが閉まった瞬間、彼の唇が私の唇を激しく塞ぎました。

長いキスに息を奪われ、背中に回された腕に押しつけられるようにして壁に凭れかかる。舌が絡み合うたびに頭が真っ白になり、身体の奥が熱く疼いていくのが自分でも分かりました。

彼の手は迷いなく私の体を辿り、胸を撫で、ウエストを掴み、スカートの裾を押し上げていきます。久しく感じていなかった男の人の手の熱。布越しに触れられるたび、声を押し殺しても抑えきれない吐息が漏れてしまいました。

「こんなに濡れてる…」

彼の指が下着の中に入り込んだ瞬間、思わず腰が跳ねました。恥ずかしさと快感が入り混じり、必死に堪えても身体は正直に反応してしまう。指先が私を探るたびに、熱いものがこみ上げてきて、理性はどんどん溶けていきました。

やがてベッドに押し倒され、彼の体温が覆いかぶさってくる。重さと同時に感じる安心感。唇から首筋、胸元へと移動する彼の熱い口づけに、声を抑えることができなくなり、部屋に甘い声が響きました。

そして、彼が深く私の中に入り込んだ瞬間――忘れていた感覚が一気に蘇りました。

「…あぁ…」

熱くて、苦しくて、でもどうしようもなく満たされる。身体が軋むほどに求め合い、絡み合うたび、背徳感が甘美な刺激に変わっていく。彼の動きに合わせて何度も絶頂を迎え、そのたびに涙がにじむほどの快感に飲み込まれていきました。

夜が明けて、彼の腕の中で目を覚ましたとき、胸には幸せと罪悪感が同時に残っていました。私を女として扱ってくれたことへの喜びと、彼の帰る場所が私ではない現実。そのギャップが切なくて、どうしようもなく彼を求めてしまうのです。

それからも私たちは逢瀬を重ねました。会えない日々は彼を思って自分を慰めながら眠る夜もありました。彼に触れてもらった感覚を忘れられず、次に会える日を指折り数える。身体だけでなく、心までも彼に支配されていく自分を感じていました。

ある日、彼が真剣な顔でこう言いました。

「家庭を壊すつもりはない。でも君を失うこともできない。」

その言葉に、涙が溢れました。私は都合のいい女でしかないのかもしれない。だけど、彼と過ごした夜の熱はすべて嘘じゃない。バツイチの孤独を抱えていた私に、再び女としての悦びを思い出させてくれたのは、間違いなく彼でした。

今も、この関係に終わりが来る日がいつかは訪れると分かっています。それでも、彼の唇や指先の感触、身体の奥まで満たされたあの夜の余韻は、決して消えないでしょう。

禁じられた関係に溺れながらも、私は今日も彼を待っています。

(了)

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